親の借金や、関わりたくない事情があって「相続放棄」を考えるとき、「相続を放棄したら、実家のお墓や仏壇の承継はどうなるのだろう」という疑問が出てくることがあります。結論から言うと、お墓や仏壇(祭祀財産)の承継は、通常の相続とは別の条文で定められています。ここでは、条文の構造から分かる範囲と、分からない範囲を分けて整理します。
お墓の承継(祭祀承継)は、相続とは別枠の規定
民法897条は、系譜・祭具・墳墓(お墓や仏壇など)の所有権について、次のように定めています(→ 記事「墓じまい費用は誰が払う?兄弟・親族での分担の考え方」で条文の内容を詳しく扱っています)。
この897条は、条文の冒頭で「前条の規定にかかわらず」と定めています。「前条」とは民法896条(相続人が被相続人の権利義務を包括的に承継する、という通常の相続の規定)を指します。つまり、お墓や仏壇の承継は、896条に基づく通常の相続とは別の規定で決まる、という条文の組み立てになっています。
相続放棄は「896条の相続人としての地位」を放棄する手続き
相続放棄は、民法915条・938条に基づき、家庭裁判所へ申述して行う手続きです。相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から原則3か月以内に、相続の承認または放棄を決めなければならないとされています(家庭裁判所への申立てにより、この期間が伸長される場合もあります)。
相続放棄をすると、その人は896条に基づく相続人としての地位(プラスの財産もマイナスの財産=借金も含めて包括的に承継する立場)を失います。ここまでは民法の条文で確認できることです。
ここから先は、条文だけでは断定できない
897条が896条と別枠に置かれている以上、条文の構造としては、相続放棄をしたことが直ちに897条の祭祀承継を妨げる、あるいは祭祀承継者の資格を失わせると定めた条文は見当たりません。ただし、これは「相続放棄をしても祭祀承継者になれる」と言い切れることを意味するものでもありません。次のような点は、今回確認した条文だけでは分からず、本記事の範囲を超えます。
- 相続放棄をした人が、実際に祭祀承継者として指定・慣習・家庭裁判所の審判により定められた場合に、実務上どう扱われるか
- 墓地の名義(墓地使用権という契約上の地位)の承継に、相続放棄がどう影響するか。これは墓地・霊園の管理者ごとの規約による別問題です(→ 記事「名義人が亡くなっている・連絡が取れないお墓の墓じまい」)
「相続放棄すればお墓のことは何も考えなくてよい」と単純に判断せず、実際に祭祀承継者になりそうな場合や、墓地の名義変更が必要になりそうな場合は、個別に確認することをおすすめします。
迷ったら、まず専門家に相談する
相続放棄をするかどうかの判断は、財産・負債全体の状況をふまえて行う必要があり、期限(原則3か月)もあります。お墓や仏壇の扱いだけでなく、相続全体に関わる判断のため、弁護士・司法書士に相談しながら進めることをおすすめします。
次に確認すること
- 相続放棄を検討している場合は、期限(原則3か月)を確認し、早めに弁護士・司法書士に相談する。
- 自分が祭祀承継者になりそうな場合は、それが相続放棄とは別の話であることを踏まえて、誰が承継するかを家族で確認する。
- 墓地の名義変更が必要になりそうな場合は、墓地・霊園の管理者に、相続放棄との関係も含めて確認する。
まとめ
お墓や仏壇の承継(祭祀承継)は、民法897条により、通常の相続(896条)とは別の規定で決まります。相続放棄は896条に基づく相続人としての地位を放棄する手続きで、条文上は897条と別枠に置かれています。ただし、相続放棄をした場合に祭祀承継や墓地の名義変更が実際どう扱われるかは、今回確認した条文だけでは判断できません。判断に迷う場合は、弁護士・司法書士にご相談ください。
相談や資料請求の前に整理しておくことは、トップページの「今日できること」にまとめています。
この記事は一般的な情報の整理です。相続放棄の要否・可否や、祭祀承継・墓地の名義変更への影響についての個別の判断は、弁護士・司法書士にご確認ください。出典:民法第896条・第897条・第915条・第938条(e-Gov 法令API で条文を取得。2026-09-24 確認)。最終確認日:2026-09-24。
